コラム・会計関係
コラム-会計関係-
- オリンパス事件と会計監査人の責任について (2012/02/28)
- 地方自治体会計について (2012/02/02)
- 退職給付会計の展望 (2012/01/28)
オリンパス事件と会計監査人の責任について
去年の11月にオリンパスから発表された過去の粉飾決算に関する報道は世の中に大きな影響を与え、マスコミにも何度も取り上げられました。一流企業であるオリンパスが、過去から長期間に亘って粉飾の事実を隠していたこと、証券市場の対応や監査法人の責任、その他の国内の上場企業の粉飾の可能性まで話が広がったことは皆さんの記憶に新しいかと思います。
1.粉飾のスキーム概要
オリンパスは、バブル崩壊に伴い、保有している金融商品の損失が増大しはじめ、それを取り返すためにさらにリスクの高い仕組み債等に手を出すようになり、結果として1990年代後半には1000億円を下回るほどに膨れ上がりました。
2001年に導入される金融商品会計によって開示されることとなる含み損の露呈を避けようといわゆる飛ばしを行ったことは皆さんご存知かと思います。値下がりしている金融商品を保有していたら評価損を計上しなければいけないのであれば、譲渡損が出ないような形で処分できればいいのでは?と単純に考えてしまうかもしれません。
具体的な方法としてはオリンパスの連結対象とならないファンドを用いて含み損を抱える金融商品を飛ばすことを計画、連結対象外の受け皿ファンドを作り、金融商品を簿価で買い取らせるためのスキームを作成、実行しました。スキームの概略は下記の通りです。
①ヨーロッパルート
ファンドにオリンパスの外貨預金を担保に借り入れを行わせ、その資金により、オリンパスの保有している含み損ファンドを買い取らせる。その後、オリンパスが国内会社買収時に計上したのれん分の支出をファンドに回し、ファンド側では、借入金返済。
(仕訳)
オリンパス 個別会計処理 | オリンパス 個別会計処理 | ファンド 会計処理 | ファンド 会計処理 | |
---|---|---|---|---|
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | |
買収資金調達 . | なし | 現金×× | 借入金×× | |
含み損ファンド簿価譲渡 | 現金×× | 含み損ファンド×× | 含み損ファンド×× | 現金×× |
高額のれん計上(国内3社ルートより) | のれん×× | 現金×× | 現金×× | 株式売却収入×× |
簿外負債の返済と手仕舞い | なし | 借入金×× 処分損×× | 現金×× 含み損ファンド×× |
②シンガポールルート
含み損ファンド買収資金作りのためにファンドを創設し、含み損ファンドを簿価譲渡、手数料としてのれんを計上し、その資金をもって当該ファンドを手仕舞い。
(仕訳)
オリンパス 個別会計処理 | オリンパス 個別会計処理 | ファンド 会計処理 | ファンド 会計処理 | |
---|---|---|---|---|
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | |
空ファンド創設 . | 空ファンド×× | 現金×× | 現金×× | ファンド基金×× |
含み損ファンド簿価譲渡 | 現金×× | 含み損ファンド×× | 含み損ファンド×× | 現金×× |
高額のれん計上(手数料) | のれん×× | 現金×× | 現金×× | 手数料収入×× |
空ファンド手仕舞と償還 | 現金×× | 空ファンド×× | 処分損×× ファンド基金×× | 含み損ファンド×× 現金×× |
③国内ルート
ベンチャーファンドを創設し、国内3社の株式を購入。その後、ファンドを現物償還。
(仕訳)
オリンパス 個別会計処理 | オリンパス 個別会計処理 | ファンド 会計処理 | ファンド 会計処理 | |
---|---|---|---|---|
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | |
ベンチャーファンド創設 | 投資ファンド×× | 現金×× | 現金×× | ファンド基金×× |
国内3社株式の購入 | なし | 有価証券×× | 現金×× | |
ファンドの途中現物償還 | 有価証券×× | 投資ファンド×× | ファンド基金×× | 有価証券×× |
2.会計監査人の責任
オリンパスの会計監査は2009年3月期まであずさ監査法人、それ以降を新日本監査法人が行っています。第3者委員会報告で、会計監査人に問題があると言及しているポイントは下記のとおりです。
①国内3社株式の買収
国内3社株式の買収時に「のれん」(2008年3月期545億円、2009年3月期136億円)が計上されている点の適正性について
→第3者委員会報告書:
取引金額の異常性を考慮すれば、株式価値評価を行った会計事務所へのヒヤリング、本件国内3社の実態把握などの追加手続きを行うべきであった
ただし、国内3社の株式取得がオリンパスの決算月である2008年3月に実行されており、外形上は第三者と合意した価格での取引を装っているため、監査法人はのれんの計上を否認できなかった
⇒監査人に全く落ち度がないとは言えないが2008年3月期の監査上、会計処理を不適正と判断する根拠が入手できなかったということでしょう。
また、翌年の2009年3月期には追加的手続により超過収益力はないと結論付け会社にのれんの一括償却を行わせています。
②2009年3月期に無限定適正意見を出したことについて
あずさ監査法人は、2009年1月末には国内3社に関するオリンパス社の評価に強い懸念を表明、またジャイラス社のアドバイザリー手数料および優先株式の買い取りの金額の妥当性を指摘し、株主代表訴訟の可能性まで言及したと報告されています。その後、状況によっては金融商品取引法第193条の3(法令違反等事実発見への対応)の発動もありうることを会社に伝え、会計処理を正しくすることは当然として、今後の調査の状況次第では、来期の監査継続ができなくなるおそれがあるという懸念を表明したとされています。
→第3者委員会報告書:
このような状況の中で監査役会が専門家の報告書をベースに問題なしを結論付けたことを踏まえて監査法人が無限定適正意見を出したことは問題がないとはしない
⇒この時点で限定付もしくは不適正意見を出すに足る十分な証拠を得られていなかった監査法人の立場も難しいものだと推察します。
③2010年3月期に関する監査法人間の引き継ぎについて
あずさ監査法人は新日本監査法人への監査人の交代に際して、十分に会社の問題点を伝達しなかったとされています。
→第3者委員会報告書:
日本公認会計士協会の準則の趣旨からすると問題である
3.終わりに
粉飾決算が明るみになる度に監査人の責任についても問題となり、その粉飾の手法に対する監査手続について検討されます。一方で、従来から被監査会社から監査人が監査報酬を受け取る仕組み自体について疑問視する意見も少なくありません。監査人の立場からすると不正の兆候・端緒があるときは徹底的に突き詰めて、正当な注意を払うという当然の方法により身を守ることが非常に重要なのだと改めて感じます。
2012/02/28(編集責任 中村 文子)
地方自治体会計について
はじめに
昨今の経済不況の中で、バブル崩壊後、急増している地方自治体全体の借金は約200兆円に上っています。また、政局では、大阪都構想を始めとする地方分権が叫ばれており、地方自治体の会計情報の開示についてはますます注目が増していくと考えられます。このような中でも地方自治体関連のお仕事に携わられていらっしゃらない方には、地方自治体会計はあまり馴染みがないのではと思いますので、簡単に説明をさせていただこうと思います。
1.地方自治体会計制度の改革の必要性と経緯
会計制度改革が行われる以前の地方自治体の会計制度は、長らく、現金主義・単式簿記により行われ、一般の企業会計の前提である発生主義・複式簿記などと異なる仕組みで運用されてきました。従前の制度では、自治体の総合的な財務状況が把握しづらく、住民にとって分かりにくいという課題がありました。
そこで、(1)資産や債務の管理、(2)費用の管理、(3)財務情報の分かりやすい開示、(4)行政評価・予算編成・決算分析との関係付け、(5)議会における予算や決算審議での利用、という目的で自治体会計制度の改革が進められてきました。
具体的には平成11年に経済戦略会議において中央政府及び地方公共団体の公会計基準を作成する必要があると小渕首相に最終答申書が提出され、その後、会計制度が検討され、平成18年行政改革推進法第62条2項に基づき、各地方公共団体に新地方公会計モデル(基準モデル及び総務省方式改訂モデル)を用いた連結財務書類の作成を要請し、現在では連結財務書類4表の公表が行われるに至っています(総務省HPにて閲覧可能)。
2.地方自治体の特徴と求められる会計情報
営利企業と比較して地方自治体は下記の特徴があります。
- 地方自治体のの役割
地方自治体の役割は、住民サービスの提供によって住民福祉の向上に資することであるため、利潤追求を目的とする営利企業とは異なり、その評価を利益により行うことが適切でない部分があります。 - 地方自治体の財務構造
地方自治体では、サービス提供に必要な支出がまずありきで予算が編成されます。従って、営利企業のように「いかに稼ぐか」ではなく、「いかに使うか」が財務構造の中でもっとも優先される事項となります。従って、発生主義の損益計算よりも、支出と収入のバランスを確認するための現金主義による収支計算が重視されてきました。 - 地方自治体と納税者との関係
通常の経済活動では、支出者の欲しいものを本人の負担で購入しますが、自治体サービスにおいては納税者が税金の使途を直接決定することができません。また、納税額は本人の意思とは無関係に強制的に決められた金額を徴収されます。従って、収益と費用を対比させる利益計算よりも議会で承認された予算が実行されているかを確認することが重要であるとされてきました。
新しい会計制度では、地方自治他の特徴から下記のような分析が可能となる形式となっています。
視点 | 自治体の指標 | 開示情報 |
---|---|---|
効率性 | ・住民1人当たり行政コスト ・行政コスト対公共資産比率 | 人口、B/S、P/L |
弾力性 | ・行政コスト対税収等比率 ・経常収支比率 | 人口、B/S、P/L |
自立性 | ・受益者負担の割合 | 人口、B/S、P/L |
持続可能性 | ・住民1人当たり負債額 ・基礎的財政収支 | 人口、B/S、C/F |
世代間公平性 | ・純資産比率 ・将来世代負担比率 | B/S |
資産形成 | ・住民1人当たり資産額 ・資産老朽化比率 ・歳入対資産比率 | 人口、B/S、C/F、決算統計 |
3.会計情報
総務省は地方自治体に対して、企業会計制度を採用した「基準モデル」と、既存の決算統計情報が活用可能な「総務省方式改訂モデル」の二種類の会計制度を提案しました。地方自治体は、どちらか一方のモデルを選んで連結ベースで(1)貸借対照表(B/S)、(2)行政コスト計算書(P/L)、(3)資金収支計算書(C/F)、(4)純資産変動計算書(NWM)の4表を作成しています。
基準モデルと総務省方式改訂モデルには、財務情報についての考え方に違いがあります(下表参照)。基準モデルは、固定資産台帳の整備および発生主義、複式簿記の採用により、個々の取引伝票までさかのぼった検証が可能です。一方、総務省方式改訂モデルでは、個々の複式記帳によらず、既存の決算統計情報を活用するため、固定資産の算定評価額が精密とは言えません。また、初年度の作成時の負荷は比較的軽微ですが、継続作成時には段階的な固定資産台帳の整備に伴う負荷があります。
項目 | 基準モデル | 総務省方式改訂モデル |
---|---|---|
固定資産の算定方法(初年度期首残高) | ・現存する固定資産をすべてリストアップし、公正価値により評価 | ・売却可能資産:時価評価 ・売却可能資産以外:過去の建設事業の積み上げにより算定 → 段階的に固定資産情報を整備 |
固定資産の算定方式(継続作成時) | ・発生主義的な財務会計データから固定資産情報を作成 ・その他、公正価値により評価 | |
固定資産の範囲 | ・すべての固定資産を網羅 | ・当初は建設事業費の範囲 → 段階的に拡張し、木立、物品、地上権、ソフトウエアなどを含めることを想定 |
台帳整備 | ・開始貸借対照表作成時に整備。その後、継続的に更新 | ・段階的整備を想定 → 売却可能資産、土地を優先 |
作成時の負荷 | ・当初は、固定資産の台帳整備および仕訳パターンの整備などに伴う負荷あり ・継続作成時には負荷減少 | ・当初は、売却可能資産の洗い出しと評価、回収不能見込み額の算定など、現行総務省方式の作成団体であれば負荷は比較的軽微 ・継続作成時には、段階的に整備に伴う負荷あり |
財務書類の検証可能性 | ・開始時未分析残高を除き、財務書類の数値から元帳、伝票にさかのぼって検証可能 | ・台帳の段階的整備などにより、検証可能性を高めることは可能 |
財務書類の作成・開示時期 | ・出納整理期間後、早期の作成・開示が可能 | ・出納整理期間後、決算統計と並行して作成・開示 |
出典:「新地方公会計制度実務研究報告書 」
基準モデルと総務省方式改訂モデル以外にも、東京都などの先進的な自治体が独自に制定した公会計制度も存在します。
4.今後の課題
①会計制度等の一層の充実
基準モデルと総務省方式改訂モデルが両立されているため、今後統一を行い、比較可能性の向上を行う必要があります。また、自治体会計の中で非常に重要な固定資産について減損会計の導入について検討が必要です。
②監査制度の充実
監査人の地方自治に関する知識の充実や監査意見の利用者の理解(期待ギャップの解消など)がより一層必要であると考えられます。
参考:第43回 中日本五回研究大会 自由論題「地方自治体の会計」
2012/02/02(編集責任 中村 文子)
退職給付会計の展望
現行のIAS(国際財務報告基準)は、第19号『従業員給付』において、従業員に対する給付に関する会計基準を定めています。このIAS第19号に対しては、情報の透明性の面での批判があり、IASB(国際会計基準審議会)はIAS第19号の包括的見直しプロジェクトを立ち上げました。当面の短期プロジェクト(別に長期プロジェクトもあります)において、IASBは、2011年6月に改定IAS第19号『従業員給付』(以下「改訂IAS19号」を公表しました。
現在の我が国の退職給付会計に係る基準(以下「日本基準」)は、概ねIAS第19号と同様の内容となっています。したがって、改訂IAS19号の適用に伴い、日本基準も早晩同様の改訂がおこなわれると考えられます。今般の改定の概要は以下の通りです。
- 数理計算上の差異(割引率等を用いての見積り計算数値と実績との乖離によって生じる差異)の取り扱い
即時認識が義務付けられる。 - 期待運用収益率の廃止
利息費用と同様に割引率を用いて期待運用収益を計算し、利息費用と期待運用収益の純額が純利息費用として開示される。
【解説】
現行IAS第19号では、数理計算上の差異は、
- 『回廊(注1)』を超過した金額を平均残存勤務期間に渡り認識する方法
- 上記1)より早く認識する方法
- 即時に認識する方法
が認められています。(今回の改定で上記 1) 2)が認められなくなります。)
一方、日本基準では、
- 発生した期、又はその翌期より、平均残存勤務期間以内の一定年数により
定額法又は定率法を用いて費用処理する方法 - 即時に認識する方法
が認められています。
(注1) 回廊(corridor)とは、前報告期間末における確定給付制度債務の現在価値(制度資産控除前)の10%、又は、当該日現在で制度資産があればその公正価値の10%のいずれか大きい金額をいいます。
2012/01/28 (編集責任 海崎 雅子)